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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)995号 判決 1961年11月07日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人塚本安平の上告理由第一点について。

解約の申入による家屋賃貸借契約の終了を理由として、賃借人および転借人に対し、当該家屋の明渡しを求める訴訟においては、当該賃貸借について解約の申入があつたこと、転借人に対し解約の申入による賃貸借終了の通知があつたこと、解約の申入および右通知のあつた時から口頭弁論終結の時までに、少なくとも、六カ月を経過していること、解約の申入について「正当の事由」があつた場合であることが認められるかぎり、裁判所は、さらに、所論のような事項について釈明する必要があるわけのものではない。原判文を通読すれば、本件においては、原審は、被上告人が昭和二八年九月五日上告人両名を相手方として本件家屋明渡しの調停の申立をしたこと、上告人らがその頃その申立を了知したことを認定したうえ、同申立は、特別の事情のないかぎり、上告人田中嘉助に対しては本件家屋の賃貸借についての解約の申入の意思表示を、上告人益田次夫に対しては解約の申入による本件賃貸借の終了の通知を伴うものと解されること、上告人両名が同申立を了知した時から原審口頭弁論終結前にすでに六カ月以上を経過していること、本件解約の申入については「正当の事由」があることを前提として被上告人の請求を是認したものであることが明らかである。したがつて、原判決には所論の違法はなく、論旨は理由がない。

同第二点一について。

本件家屋の明渡しを求める調停の申立は、本件賃貸借契約の存続と相容れないものであるから、特別の事情がないかぎり、その申立の理由いかんを問わず、同契約についての解約の申入の意思表示を伴うものと解するのが相当である。したがつて、右と同趣旨の見解に立つ原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。

同第二点二について。

解約の申入以後の単なる日時の経過や住宅事情の寛和がそれだけでいわゆる「正当の事由」に当るといえないことはもちろんであるが、「正当の事由」の存否の判断にあたつては、単に当事者双方の事情だけでなく、公益上、社会上各般の事情をしんしやくすることが許されるのであつて、原審はその認定の本件当事者双方の諸般の事情に加えて、前記事情をしんしやくし、被上告人の請求を是認していることが、原判文上、明らかであるから、原判決に所論の違法はなく、論旨は理由がない。

同第二点三について。

論旨は法令の違背をいうけれども、原審が適法に確定した当事者双方の事情のもとでは、被上告人の本件解約の申入については借家法一条の二にいう「正当の事由」があるとした原審の判断は相当である。したがつて、原判決に所論の違法はなく論旨は採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一 裁判官 五鬼上堅磐)

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